::夕陽と海::


「私、海って大好きなんです。いい思い出が、たくさんあるから」

あなたのその一言で、オレは今日あなたを海に連れてきた。

夕陽がまぶしい…

砂浜を走ったり、砂で城を作ってみたり、貝を拾ってみたり。

あなたはまるで子供のようにはしゃいで。

「和真さん、この貝殻見てください!」

岩に腰掛けてあなたに見とれていたオレは、こちらに駆け寄ってくるあなたにふと我に返って。

「な、何スか?」

色白の手のひらに置かれたその貝殻は、小さくて滑らかで丸くて、おぼろげな光を光っていた。

「氷泪石に、似てるでしょ?」

そう言って微笑むあなた。

オレは、その貝殻に再び目を落とした。

確かに似てる。

あなたに出会った日に、オレを治療しながら、

あなたが思わず目ににじませた涙に。

『大丈夫! 私、人間(あなた)のこと、好きです』

雪菜さん… オレは、あなたに幸せになってほしい。

ホントは、幸せにしてあげたい、と言えたらどんなにいいか。

けど、オレは人間だから。

『氷女が異種族と交わった場合 氷女は男児を生み
 その直後 例外なく死に至る』

そんなこと、誰も教えちゃくれなかった。

たまたま、図書館の本で読んだ事典に載ってたんだ。

蔵馬に問いただしたけど、何も返事してくれなかった。

ただ一言、「オレからは答えることはできません」って。

雪菜さん… だから、オレはせめてあなたの幸せを願うことくらいしかできねェ。

あなたの幸せを… 願ってもいいですか。

「和真さん?」

不思議そうにオレを見つめるあなたのその手から、貝殻を取った。

「雪菜さん… 雪菜さんは、これから一生、悲しみの涙で氷泪石なんか作らないでください。
あなたにはずっと、幸せに生きてほしいんです」

少しの間の後、ふとあなたの手がオレの手に触れた。

「和真さん、私、今これ以上ないくらいに幸せです。
和真さんの家で暮らさせてもらっていること… そして今、和真さんとこうやって海に来ていること、
ひとつひとつ、一瞬一瞬が、私には胸がいっぱいになるくらい幸せなんです」

あなたはまっすぐ、オレの目を見て、精一杯に語ってくれている。


「幸せに生きてほしいだなんて、言わないでください。
一緒に、幸せになりましょう? 和真さん」


…雪菜さん。

あなたはどうして… そんなに優しいんですか?


「え、和真さん、泣かないで… 私、何か変なこと言いました?」

慌ててオレの肩に触れてくるあなたの手は、切ないほど優しくて…

オレも、やっぱり今のままが一番幸せなんだと、判った。


これからもずっと、このまま。

幸せでいましょう。


雪菜さん。




(終)






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後書き

今回は本当にシンプルで短い小話になりました。
シンプルすぎてむしろ、詩と呼んでもいいくらいかもしれません。

桑ちゃんにかなりキザに語ってもらいましたが、
彼って雪菜ちゃんのことになると、どこの誰よりも真面目で紳士的で
熱くて純粋な男になると思うんですよね。
だから少々キザっぽいほうがむしろ素直! と城菜は思います。

しかも、雪菜ちゃん何気にプロポーズみたいな言葉を発してましたが、
本人はそういう気は全くないと思います(爆)
彼女は彼女で、恋愛のことになるととことんニブいみたいですから。
桑ちゃーん何て報われないんだっ!!! うわあぁん。
せめて一緒にいられる幸せを、ひしひしと感じてほしいです。
感じてください!!

というわけで、今回は桑ちゃんの幸せをひたすら願って書きました。
感想お待ちしております。(^^)


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